「従業員の源泉所得税を毎月納付するのが面倒...」「小規模事業者でも手続きを簡素化する方法はないの?」
そんな悩みを持つ個人事業主や小規模法人の方に朗報です。源泉所得税の納期の特例制度を利用すれば、納付回数を年12回から年2回に減らすことができます。この記事では、制度の概要から申請書の書き方まで、徹底的に解説します。
源泉所得税の納期の特例とは
源泉所得税の納期の特例とは、従業員から預かった源泉所得税の納付回数を年12回から年2回に減らせる制度です。通常、毎月納付が必要な源泉所得税を半年分まとめて納付できるようになります。
通常の納付期限と特例の納付期限の比較
期間 | 通常の納付期限 | 特例適用時の納付期限 |
---|---|---|
1月分 | 2月10日 | 7月10日 |
2月分 | 3月10日 | 7月10日 |
3月分 | 4月10日 | 7月10日 |
4月分 | 5月10日 | 7月10日 |
5月分 | 6月10日 | 7月10日 |
6月分 | 7月10日 | 7月10日 |
7月分 | 8月10日 | 翌年1月20日 |
8月分 | 9月10日 | 翌年1月20日 |
9月分 | 10月10日 | 翌年1月20日 |
10月分 | 11月10日 | 翌年1月20日 |
11月分 | 12月10日 | 翌年1月20日 |
12月分 | 翌年1月10日 | 翌年1月20日 |
つまり、1月〜6月分の源泉所得税は7月10日までに、7月〜12月分は翌年1月20日までにまとめて納付することができます。
納期の特例を利用するメリット
納期の特例を利用することで得られる主なメリットは以下の通りです:
1. 事務負担の大幅な軽減
- 納付回数が減少: 年12回から年2回へ
- 納付書作成の手間削減: 12枚ではなく2枚だけでOK
- 納付のための銀行・税務署への訪問頻度減少: 毎月ではなく半年に1回
2. 資金繰りの改善
- 納付資金の一時的な社内留保: 最大6ヶ月間、資金を社内に留保可能
- キャッシュフローの改善: 事業資金として一時的に活用できる
3. うっかり納め忘れのリスク軽減
- 納付機会の減少: 納付回数が少なくなることで納め忘れのリスクも減少
- 納付スケジュール管理の簡素化: 年2回の大きなイベントとして管理しやすい
納期の特例の適用条件
納期の特例が適用されるための条件は以下の通りです:
主な条件
- 従業員数が常時10人未満であること
- 源泉徴収義務者であること(給与等を支払っていること)
「常時10人未満」の考え方
ここでの「常時」というのは、継続的・恒常的な状態を指します。一時的に10人以上になっても、すぐに特例が受けられなくなるわけではありません。
- 常態的に9人で、繁忙期だけ一時的に12人になる場合: 特例適用可能
- 通常12人で、特定の月だけ9人になる場合: 特例適用不可
従業員のカウント方法
従業員数をカウントする際の注意点は以下の通りです:
- 社会保険加入の有無は関係なし: パート・アルバイトも1人としてカウント
- 役員はカウントしない: 個人事業主の場合、事業主本人もカウントしない
- 青色事業専従者はカウント: 青色申告の場合の家族従業員は従業員数に含む
納期の特例の申請方法
納期の特例を受けるためには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する必要があります。
提出先
申請書の提出先は、納税地を所轄する税務署長です。
提出期限
提出期限は特に定められていませんが、提出した月の翌々月以降に納付すべき源泉所得税から適用されます。
例えば:
- 6月に申請書を提出した場合 → 8月納付分(6月支給分)から適用
- 6月支給分の源泉所得税:通常なら7月10日納付 → 翌年1月20日に納付可能に
申請の効力
申請書を提出して特例が認められると、取りやめの手続きをしない限り継続して適用されます。毎年申請する必要はありません。
申請書の入手方法
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、以下の方法で入手できます:
1. 税務署で直接入手
各税務署の窓口で申請書を受け取り、手書きで記入します。
2. 国税庁のホームページからダウンロード
国税庁ホームページからPDFファイルをダウンロードして印刷できます。国税庁ホームページで「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」と検索するか、以下の手順で探すことができます:
- 国税庁ホームページにアクセス
- 「税務手続・用紙(手続・用紙の案内)」をクリック
- 「申告・申請・届出等、用紙(手続の案内)」をクリック
- 「源泉所得税関係」から「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を選択
3. 開業支援サービスを利用する
開業に必要な書類を一括作成できるサービスを利用して作成することも可能です。会計ソフトの中には、申請書作成機能を備えているものもあります。
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源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の書き方
申請書に記入する際のポイントを項目ごとに解説します。
1. 住所または本店の所在地
- 個人事業主の場合: 給与支払事務所の届出に記載した住所を記入
- 法人の場合: 登記上の本店所在地を記入
2. 氏名または名称
- 個人事業主の場合: 本人の氏名、屋号がある場合は屋号も記入
- 法人の場合: 法人名を正式名称で記入
3. 法人番号/個人番号
- 個人事業主の場合: 個人番号(マイナンバー)を記入
- 法人の場合: 法人番号(13桁)を記入
4. 代表者氏名
- 個人事業主の場合: 事業主本人の氏名を記入
- 法人の場合: 代表者の氏名を記入
5. 給与支払事務所等の所在地
給与の支払に関する事務を行う場所の所在地を記入します。
- 事業所と同じ場合: 空欄でも構いません
- 事業所と異なる場合: その場所の所在地を記入
6. 申請日前6か月間の各月末の給与の支払を受ける者の人員及び各月の支給金額
申請書を提出する前6か月間に支払った給与の状況を記入します。
- 支給人員: 各月末時点での給与支払い対象者数
- 支給金額: 各月の給与支払総額
- 「外」欄: 臨時雇用者がいる場合に記入
該当期間が6か月未満の場合は、ある分だけ記入します。まだ一度も給与を支払っていない場合は空欄で構いません。
7. 現に国税の滞納がありまたは納期の特例の承認を取り消されたことの有無
通常は、この欄は該当がなければ空欄で構いません。以下の場合は記入が必要です:
- 国税の滞納がある場合: その理由を記入
- 過去1年以内に納期の特例の承認を取り消されたことがある場合: その年月日を記入
申請後の注意点と対応
納期の特例の承認を受けた後の注意点について説明します。
承認の通知
申請書を提出しても、税務署からの承認通知はありません。申請書の控えが承認の証拠となるため、必ず控えを取っておきましょう。
適用のタイミング
特例の適用は、申請書を提出した月の翌々月以降に納付すべき源泉所得税からとなります。例えば:
- 6月に申請書を提出した場合 → 8月以降に納付すべき源泉所得税から適用
- 6月支給分(通常は7月納付)の源泉所得税 → そのまま7月10日に納付
- 7月支給分以降の源泉所得税 → 翌年1月20日にまとめて納付
従業員数が10人以上になった場合
常時10人以上になった場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった旨の届出書」を提出する必要があります。
納期の特例をやめたい場合
納期の特例の適用をやめたい場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった旨の届出書」を提出します。
よくある質問
Q1: 納期の特例は消費税にも適用できますか?
A: いいえ、納期の特例は源泉所得税のみに適用される制度です。消費税には別の特例(事前確定届出給与に対する源泉徴収の特例など)がありますが、納付回数を減らす特例はありません。
Q2: 法人でも納期の特例は利用できますか?
A: はい、法人でも従業員が常時10人未満であれば利用できます。個人事業主に限らず、法人の源泉徴収義務者も申請可能です。
Q3: 納期の特例を適用しても、年末調整は毎年必要ですか?
A: はい、納期の特例はあくまで納付のタイミングを変更するだけの制度です。年末調整は通常通り12月に行う必要があります。
Q4: 納期の特例の申請が承認されたかどうかはどうやって確認できますか?
A: 税務署から特別な承認通知は送られません。申請書を提出した時点で、特段の問題がなければ承認されたものとみなされます。申請書の控えを保管しておくことをおすすめします。
Q5: 納付を忘れてしまった場合のペナルティはありますか?
A: 納期限を過ぎると、延滞税や不納付加算税がかかる可能性があります。特に半年分をまとめて納付するため、金額が大きくなりがちですので、納付期限はしっかり管理しましょう。
まとめ
源泉所得税の納期の特例は、小規模事業者にとって事務負担を大幅に軽減できる便利な制度です。
- 納付回数が年12回から年2回に: 事務作業の大幅な削減
- 従業員10人未満が対象: 多くの個人事業主や小規模法人が利用可能
- 簡単な申請手続き: 一度申請すれば継続して適用
- 資金繰りの改善: 最大6か月間、納付資金を手元に留保可能
納期の特例を利用して、事務作業の効率化と資金繰りの改善を図りましょう。ただし、納付期限は必ず守るようにしてください。
※この記事は2025年4月現在の情報に基づいて作成されています。税制は改正されることがありますので、最新情報は国税庁のWebサイトなどでご確認ください。