「消費税の計算をもっと簡単にできる方法はないの?」「簡易課税って何?どうやって申請するの?」
消費税の計算方法には、原則課税と簡易課税の2種類があります。簡易課税制度は、その名の通り消費税の計算を簡便に行える制度ですが、この制度を利用するためには事前に「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
この記事では、簡易課税制度選択届出書の概要から記入方法、提出期限まで、わかりやすく解説します。消費税の計算を簡略化して事務負担を減らしたい方は、ぜひ参考にしてください。
簡易課税制度選択届出書とは
簡易課税制度選択届出書とは、消費税の計算方法として「簡易課税制度」を選択するために提出する届出書です。
簡易課税制度の基本
簡易課税制度では、課税売上に対する消費税額から、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を適用して消費税額を計算します。
通常の計算方法(原則課税):
消費税額 = 課税売上に係る消費税額 - 課税仕入れに係る消費税額
簡易課税制度による計算方法:
消費税額 = 課税売上に係る消費税額 × (1 - みなし仕入率)
簡易課税制度のメリットは、実際の仕入税額を計算する必要がないことです。これにより、帳簿の記録や請求書等の保存が簡略化され、事務負担が大幅に軽減されます。
簡易課税制度を適用するためには、事前に「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。
簡易課税制度を選択できる条件
簡易課税制度を選択できる事業者は限られています。以下の条件を満たす必要があります:
基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること
基準期間とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度を指します。
例えば:
- 2025年分(令和7年分)の所得税の確定申告で簡易課税を適用したい場合、基準期間は2023年(令和5年)
- 3月決算の法人が2026年4月1日から開始する事業年度に簡易課税を適用したい場合、基準期間は2024年4月1日から2025年3月31日までの事業年度
この基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合は、簡易課税制度を選択することはできません。届出書を提出しても、簡易課税は適用されないので注意しましょう。
簡易課税を適用できない場合
次の場合は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下でも簡易課税制度を選択できないことがあります:
- 特定期間の課税売上高が5,000万円を超える場合
- 特定期間:個人は前年の1月1日〜6月30日、法人は前事業年度開始日から6ヶ月間
- 高額特定資産(1,000万円以上の棚卸資産等)を取得した場合
- 高額特定資産を取得した課税期間の属する課税期間から3年間
- 簡易課税制度の適用をやめる旨の届出書を提出した場合
- 届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から2年間
提出期限と適用時期
簡易課税制度選択届出書の提出期限と適用時期は以下の通りです:
提出期限
簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。
例えば:
- 個人事業主が2026年分から簡易課税の適用を受けたい場合 → 2025年12月31日までに提出
- 3月決算法人が2026年4月1日開始事業年度から適用を受けたい場合 → 2026年3月31日までに提出
期限を過ぎると、その年(事業年度)は簡易課税制度を適用することができません。翌年(翌事業年度)からの適用となるので注意しましょう。
適用時期
届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から適用されます。例えば:
- 2025年9月に提出した場合、個人事業主は2026年1月1日から適用
- 2025年9月に提出した場合、3月決算法人は2026年4月1日から適用
特例:新規開業・法人設立の場合
個人事業主が新規開業した年や、法人が設立された事業年度から簡易課税制度の適用を受けたい場合は、その課税期間の末日(個人の場合は12月31日、法人の場合は事業年度終了日)までに届出書を提出する必要があります。
届出書の入手方法
簡易課税制度選択届出書は、以下の方法で入手できます:
1. 税務署で直接入手
最寄りの税務署の窓口で「消費税簡易課税制度選択届出書」をもらうことができます。窓口で相談しながら記入することも可能です。
2. 国税庁のホームページからダウンロード
国税庁のホームページからPDFファイルをダウンロードして印刷できます。以下の手順で探すことができます:
- 国税庁ホームページにアクセス
- 「税務手続・用紙(手続・用紙の案内)」をクリック
- 「申告・申請・届出等、用紙(手続の案内)」をクリック
- 「消費税関係」から「消費税簡易課税制度選択届出書」を選択
3. 会計ソフトで作成する
会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生会計など)では、簡易課税制度選択届出書を作成する機能があります。作成した届出書を印刷して郵送するか、電子申告(e-Tax)で提出することができます。
会計ソフトを利用するメリット:
- 入力ミスが少なくなる
- 電子申告ができる
- 他の税務書類と一元管理できる
簡易課税制度選択届出書の書き方
ここでは、簡易課税制度選択届出書の各項目の記入方法を説明します。
1. 納税地・氏名・法人番号等
個人事業主の場合:
- 納税地:住所を記入
- 氏名:フルネームを記入
- 個人番号:2016年(平成28年)1月以降に提出する場合、マイナンバー(個人番号)の記入が必要
法人の場合:
- 納税地:本店または主たる事務所の所在地
- 名称:法人名を記入
- 代表者名:代表者のフルネームを記入
- 法人番号:法人番号(13桁)を記入
2. 適用開始課税期間
簡易課税制度の適用を受けようとする期間の初日と末日を記入します。
個人事業主の場合:
- 初日:年の初日(1月1日)
- 末日:年の末日(12月31日)
法人の場合:
- 初日:事業年度の開始日
- 末日:事業年度の終了日
例えば、個人事業主が2026年分から適用を受ける場合は、「2026年1月1日〜2026年12月31日」と記入します。
3. 基準期間の課税売上高
適用を受けようとする課税期間の基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高を記入します。
例えば:
- 2026年分の確定申告で簡易課税を適用したい場合、2024年分の課税売上高を記入
- この売上高が5,000万円を超えている場合、簡易課税は適用されないので注意
4. 事業内容
現在行っている事業の内容を具体的に記入します。例えば:
- 「飲食店経営」
- 「ウェブデザイン業」
- 「衣料品小売業」
など、事業の実態が分かるように記入します。
5. 事業区分
行っている事業が、第1種から第6種のどの事業区分に該当するかを記入します。複数の事業を行っている場合は、主たる事業の区分を記入します。
簡易課税の事業区分とみなし仕入率
簡易課税制度では、事業の種類によって「みなし仕入率」が異なります。みなし仕入率が高いほど、納付する消費税額は少なくなります。
事業区分 | みなし仕入率 | 主な事業 |
---|---|---|
第1種事業 | 90% | 卸売業 |
第2種事業 | 80% | 小売業、農林漁業(飲食料品) |
第3種事業 | 70% | 製造業、建設業、農林漁業(飲食料品以外) |
第4種事業 | 60% | 飲食店業、その他の事業 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融保険業、サービス業 |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
事業区分の判定は事業実態に基づいて行います。複数の事業を行っている場合は、売上金額が最も大きい事業の区分を選びます。
事業区分の判定例
- 飲食店経営 → 第4種事業(みなし仕入率60%)
- 衣料品小売業 → 第2種事業(みなし仕入率80%)
- ウェブデザイン業 → 第5種事業(みなし仕入率50%)
- 不動産賃貸業 → 第6種事業(みなし仕入率40%)
6. 提出要件の確認
この項目では、簡易課税制度の適用ができない場合がないかを確認します。基本的には「いいえ」にチェックを入れますが、以下の場合は「はい」にチェックを入れる必要があります:
- 高額特定資産を取得した場合
- 簡易課税制度の適用をやめる旨の届出書を提出した翌課税期間から2年以内の場合
- 前年または前事業年度に1,000万円を超える棚卸資産の調整を行った場合
これらに該当する場合、簡易課税制度が適用されない可能性があるので注意が必要です。
提出後の注意点
簡易課税制度選択届出書を提出した後の注意点について説明します。
継続適用
簡易課税制度は、選択したら原則として2年間継続して適用する必要があります。2年経過するまでは、原則課税方式に戻すことはできません。
例えば、2026年分から簡易課税制度を適用した場合、少なくとも2027年分まで簡易課税制度を適用することになります。
変更や取りやめの手続き
簡易課税制度の適用をやめたい場合は、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出します。この届出書は、簡易課税制度の適用をやめようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。
また、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた場合、自動的に簡易課税制度は適用されなくなります。この場合、特に手続きは不要です。
帳簿の記帳
簡易課税制度を選択しても、売上や仕入れなどの記帳は必要です。特に、複数の事業を行っている場合は、事業区分ごとの売上を区分して記帳する必要があります。
よくある質問
Q1: 簡易課税制度は誰でも選択できますか?
A: いいえ、基準期間(前々年または前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者のみが選択できます。また、特定期間の課税売上高が5,000万円を超える場合や、高額特定資産を取得した場合なども、条件によっては選択できません。
Q2: 簡易課税制度と原則課税方式、どちらが有利ですか?
A: 事業の実態によって異なります。一般的に、実際の仕入率がみなし仕入率より低い場合は簡易課税制度が有利になります。例えば、サービス業(みなし仕入率50%)で実際の仕入率が30%の場合、簡易課税制度を選択すると納税額が少なくなります。反対に、実際の仕入率が高い場合は、原則課税方式が有利になることが多いです。
Q3: 複数の事業を行っている場合、どの事業区分を選べばいいですか?
A: 基本的には、課税売上高が最も大きい事業の区分を選びます。ただし、複数の事業区分に該当する場合は、それぞれの事業区分ごとに売上を区分して計算することもできます(区分計算)。
Q4: 届出書の提出期限に間に合わなかった場合はどうなりますか?
A: 提出期限に間に合わなかった場合、その年(事業年度)は簡易課税制度を適用することができません。翌年(翌事業年度)からの適用を目指して、改めて期限内に届出書を提出する必要があります。
Q5: 法人成りした場合、簡易課税制度の適用はどうなりますか?
A: 個人事業主から法人に変更(法人成り)した場合、法人は新たな納税者となるため、個人時代の簡易課税制度の選択は引き継がれません。法人として簡易課税制度を適用したい場合は、改めて届出書を提出する必要があります。
まとめ
簡易課税制度選択届出書は、消費税の計算を簡略化するための制度を選択するための重要な手続きです。この制度を利用することで、消費税の計算が容易になり、事務負担を軽減できるメリットがあります。
重要ポイント
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることが条件
- 適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出が必要
- 事業内容によって事業区分とみなし仕入率が決まる
- 選択したら原則として2年間は継続適用が必要
- 実際の仕入率と比較して、有利か不利かを判断することが大切
自分の事業の実態や今後の見通しを踏まえ、簡易課税制度が有利かどうかを検討した上で、適切な時期に届出書を提出しましょう。
この記事は2025年4月現在の税制に基づいて作成されています。税制は改正されることがありますので、最新情報は国税庁のWebサイトなどでご確認ください。