個人事業主や中小企業の方にとって、消費税の計算や申告は悩みの種になりがちです。消費税には「原則課税方式」と「簡易課税方式」という2つの計算方法がありますが、条件によっては「簡易課税制度」を選ぶことで事務負担を大幅に軽減できる可能性があります。
この記事では、簡易課税制度の概要、適用条件、計算方法、そして実際の計算例までをわかりやすく解説します。これから開業する方や、消費税の申告方法を見直したい方はぜひ参考にしてください。
簡易課税制度とは
消費税の計算方法には大きく分けて「原則課税方式」と「簡易課税方式」の2種類があります。
原則課税方式(本則課税)
原則課税方式では、次の計算式で消費税額を算出します。
課税売上に係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額 = 納付税額
簡単に言えば「預かった消費税 - 支払った消費税 = 納付する消費税」という計算です。
この方法では、全ての課税仕入れを正確に記録・集計する必要があり、事務作業が煩雑になりがちです。
簡易課税方式
一方、簡易課税方式では、仕入税額を実際に計算する代わりに、売上に対する一定割合を仕入税額とみなして計算します。
課税売上に係る消費税額 - (課税売上に係る消費税額 × みなし仕入率) = 納付税額
簡単に言えば「預かった消費税 × (1 - みなし仕入率) = 納付する消費税」です。
この方法の最大の特徴は、実際の仕入れにかかった消費税額を計算する必要がない点です。業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って簡便に計算できるため、経理の手間を大幅に削減できます。
簡易課税制度を適用できる条件
簡易課税制度は誰でも利用できるわけではありません。以下の条件を満たす必要があります:
- 基準期間(前々年または前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下であること
- 簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出していること
具体例
例えば、個人事業主の場合:
- 2025年分の消費税を簡易課税で計算したい場合
- 2023年分(前々年)の課税売上高が5,000万円以下である必要がある
- 2024年12月31日までに「簡易課税選択届出書」を税務署に提出しておく必要がある
法人の場合も同様に、適用したい事業年度の前々事業年度の課税売上高が基準となります。
重要ポイント:簡易課税制度を適用するには事前の届出が必要です。課税期間の開始前(個人の場合は前年12月31日まで、法人の場合は事業年度開始日の前日まで)に提出しておく必要があります。
簡易課税制度のメリット・デメリット
メリット
- 事務負担の軽減:仕入税額の計算や請求書等の保存が簡略化される
- 予測可能性:納税額が売上高から簡単に予測できる
- 仕入れが少ない業種では節税になる可能性:みなし仕入率より実際の仕入率が低い場合は有利
デメリット
- 仕入れが多い業種では不利になる可能性:みなし仕入率より実際の仕入率が高い場合は不利
- 2年間の継続適用:一度選択すると原則として2年間は継続適用が必要
- 選択のタイミング:事前に届出が必要なため、事業状況の変化に即応できない
簡易課税の計算方法
簡易課税制度における消費税の計算方法は以下の通りです:
課税売上に係る消費税額 × (1 - みなし仕入率) = 納付税額
または
課税売上に係る消費税額 × 控除率 = 納付税額
※控除率 = 1 - みなし仕入率
例えば、みなし仕入率が80%の小売業の場合:
- 控除率は1 - 0.8 = 0.2(20%)
- 課税売上に係る消費税額 × 0.2 = 納付税額
事業区分とみなし仕入率
簡易課税制度では、事業の種類によって「みなし仕入率」が異なります。事業区分と対応するみなし仕入率は以下の通りです:
事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | 卸売業 |
第二種事業 | 80% | 小売業、農林漁業(飲食料品)※ |
第三種事業 | 70% | 製造業、建設業、農林漁業(飲食料品以外) |
第四種事業 | 60% | 飲食店業(食事の提供) |
第五種事業 | 50% | サービス業(飲食店業を除く)、金融業、運輸通信業 |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
※ 2019年10月1日以降、軽減税率が適用される飲食料品を扱う農林漁業は第二種事業に区分変更されています。
控除率の一覧(参考)
簡易課税の計算をする際に、控除率(1-みなし仕入率)を直接使うと計算が簡単です:
事業区分 | みなし仕入率 | 控除率 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | 10% |
第二種事業 | 80% | 20% |
第三種事業 | 70% | 30% |
第四種事業 | 60% | 40% |
第五種事業 | 50% | 50% |
第六種事業 | 40% | 60% |
複数の事業を行っている場合の判定
複数の事業を営んでいる場合、原則として事業区分ごとに課税売上を分けて計算する必要があります。しかし、以下の特例があります:
2種類の事業を営む場合の特例
1つの事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合、その事業のみなし仕入率を全体に適用できます。
3種類以上の事業を営む場合の特例
特定の2種類の事業の課税売上高の合計が全体の75%以上を占める場合、その2種類の事業のうち、みなし仕入率の高い方の率を適用して計算し、残りの事業には2種類のうち低い方の率を適用できます。
注意点:特例の適用が必ずしも有利になるとは限りません。特例を適用した場合としない場合の双方を計算し、税額が少なくなる方法を選ぶことが重要です。
事業区分が判断できない場合
課税売上を事業区分ごとに区分できない場合、区分できない部分については最もみなし仕入率の低い事業区分のみなし仕入率が適用されます。これは税額が高くなる可能性が高いため、可能な限り事業ごとに区分することをおすすめします。
簡易課税の計算例
例1:小売業のみを営むAさんの場合
- 事業区分:第二種事業(みなし仕入率80%)
- 課税売上高:20,000,000円
- 消費税額(10%):2,000,000円
納付税額 = 2,000,000円 × (1 - 0.8) = 2,000,000円 × 0.2 = 400,000円
例2:小売業と飲食店を営むBさんの場合
- 小売業(第二種事業、みなし仕入率80%)の課税売上:15,000,000円(60%)
- 飲食店(第四種事業、みなし仕入率60%)の課税売上:10,000,000円(40%)
- 合計課税売上:25,000,000円
- 消費税額:小売業分1,500,000円、飲食店分1,000,000円
特例判定:小売業の売上が全体の60%で特例は適用できないため、事業区分ごとに計算
小売業分:1,500,000円 × (1 - 0.8) = 1,500,000円 × 0.2 = 300,000円
飲食店分:1,000,000円 × (1 - 0.6) = 1,000,000円 × 0.4 = 400,000円
納付税額 = 300,000円 + 400,000円 = 700,000円
例3:不動産業と卸売業を営むC社の場合
- 不動産業(第六種事業、みなし仕入率40%)の課税売上:40,000,000円(80%)
- 卸売業(第一種事業、みなし仕入率90%)の課税売上:10,000,000円(20%)
- 合計課税売上:50,000,000円
- 消費税額:不動産業分4,000,000円、卸売業分1,000,000円
特例判定:不動産業の売上が全体の80%で特例が適用可能
特例適用の場合
納付税額 = (4,000,000円 + 1,000,000円) × (1 - 0.4) = 5,000,000円 × 0.6 = 3,000,000円
事業区分ごとに計算した場合
不動産業分:4,000,000円 × (1 - 0.4) = 4,000,000円 × 0.6 = 2,400,000円
卸売業分:1,000,000円 × (1 - 0.9) = 1,000,000円 × 0.1 = 100,000円
納付税額 = 2,400,000円 + 100,000円 = 2,500,000円
この場合、事業区分ごとに計算した方が500,000円税額が少なくなるため、特例は適用しない方が有利です。
ポイント:みなし仕入率が低い業種(この例では不動産業)の売上割合が高い場合は、特例を適用しない方が有利になることが多いです。常に両方のパターンで計算してみましょう。
簡易課税選択届出書の提出方法
簡易課税制度を適用するには「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。
提出期限
- 個人事業主:適用を受けようとする年の前年12月31日まで
- 法人:適用を受けようとする事業年度開始の日の前日まで
必要事項
- 納税者の基本情報(氏名・住所・個人番号または法人番号)
- 適用を受けようとする課税期間
- 事業の種類
提出方法
- 書面での提出:最寄りの税務署へ郵送または持参
- 電子申告(e-Tax)での提出:オンラインで手続き可能
参考: 届出書のフォーマットや記入例は国税庁のWebサイトからダウンロードできます。
まとめ:簡易課税制度は事業内容で選ぶべき
簡易課税制度は、事務負担の軽減というメリットがある一方、事業内容によっては税負担が増えるケースもあります。選択の際のポイントは以下の通りです:
- 実際の仕入率を確認:みなし仕入率より実際の仕入率が低い場合は簡易課税が有利
- 事業の将来性を考慮:事業規模や内容の変化を予測して判断
- 届出期限を厳守:適用したい年の前年末までに届出書を提出
- 2年縛りを考慮:一度選択すると2年間は継続適用が必要
- 複数事業の場合は試算:特例適用と個別計算の両方を試算する
簡易課税制度の選択は事業の収益性に直結する重要な判断です。不安な点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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会計ソフトを使えば、簡易課税・原則課税どちらの方式でも計算負担を大幅に軽減できます。
この記事は2025年4月現在の税制に基づいて作成されています。税制は改正されることがありますので、最新情報は国税庁のWebサイトなどでご確認ください。