「青色申告の65万円控除を受けるには貸借対照表と損益計算書が必要って聞いたけど、どう作ればいいの?」
青色申告で最大のメリットである65万円控除を受けるためには、確定申告書に「貸借対照表」と「損益計算書」を添付する必要があります。しかし、初めて青色申告をする方にとって、これらの財務諸表は難しく感じるものです。
本記事では、税理士監修のもと、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)の基本から書き方のポイントまで、わかりやすく解説します。この記事を読めば、青色申告の65万円控除の条件を満たす財務諸表を自信を持って作成できるようになります。
青色申告の65万円控除を受けるための条件
青色申告で65万円の特別控除を受けるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります:
- 事前に「青色申告承認申請書」を提出していること(開業届を提出した日から2ヶ月以内、または課税年度の3月15日までに提出)
- 複式簿記で記帳していること
- 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付すること
- e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行うこと(2022年分以降)
このうち特に重要なのが**「複式簿記による記帳」と「貸借対照表・損益計算書の添付」**です。これが65万円控除と10万円控除の大きな違いとなります。
📝 ポイント:複式簿記とは、すべての取引を「借方」と「貸方」の二面から記録する方法です。会計ソフトを使えば難しい仕訳も自動的に行ってくれるため、専門知識がなくても対応可能です。
損益計算書(PL)とは?基本と作成ポイント {#損益計算書とは}
損益計算書の基本
損益計算書(PL:Profit and Loss statement)は、1年間の事業の収益と費用を表す財務諸表です。いわば「事業の通信簿」といえるもので、1年間でどれだけの売上があり、どれだけの費用がかかって、最終的にいくらの利益(所得)が残ったかを示します。
損益計算書で計算される最終的な利益(所得金額)に基づいて、所得税や住民税などの税金が計算されます。
損益計算書の構造
個人事業主の損益計算書は、基本的に以下の構造になっています:
売上金額 - 売上原価 = 差引金額(売上総利益)
差引金額 - 経費 = 所得金額
個人事業主の損益計算書の特徴
個人事業主の損益計算書には、法人のものと比較していくつかの違いがあります:
- 法人では「営業利益」「経常利益」「当期純利益」などと区分されますが、個人事業主では「差引金額」「所得金額」という表示になります
- 個人事業主特有の項目として「青色申告特別控除」の欄があります
- 法人では科目によって「販売費および一般管理費」「営業外費用」などと区分されますが、個人事業主ではまとめて「経費」として記載します
貸借対照表(BS)とは?基本と作成ポイント {#貸借対照表とは}
貸借対照表の基本
貸借対照表(BS:Balance Sheet)は、年末時点の資産、負債、純資産(資本)の状況を表す財務諸表です。「事業の健康診断書」ともいえるもので、事業がどのくらいの規模で、財政状態が健全かどうかを判断できます。
貸借対照表の構造
貸借対照表は、以下の等式が常に成り立つように作成されます:
資産 = 負債 + 純資産(資本)
この等式は必ず成立する必要があり、これが「貸借対照表」という名前の由来でもあります。左側(借方)に資産を、右側(貸方)に負債と純資産を記載し、両者が一致する(バランスする)ことが求められます。
貸借対照表の3つの区分
貸借対照表は大きく3つの区分に分かれています:
1. 資産の部
事業で所有している財産を表します。主な資産科目は以下の通りです:
- 現金預金:手元の現金や銀行預金
- 売掛金:商品・サービスを販売して代金を受け取っていないもの
- 棚卸資産:販売用の商品や材料
- 固定資産:車両、機械、建物など長期間使用する資産
2. 負債の部
将来支払わなければならない債務を表します。主な負債科目は以下の通りです:
- 買掛金:商品・サービスを仕入れて代金を支払っていないもの
- 借入金:銀行などからの借入
- 未払金:経費などの未払いのもの
3. 純資産(資本)の部
資産から負債を差し引いた、事業主が実質的に持っている財産を表します。個人事業主の場合の主な科目は:
- 元入金:事業を始めるときに投入した資金
- 事業主貸・事業主借:個人と事業の資金の出入り
- 青色申告特別控除前の所得金額
損益計算書と貸借対照表の関係性 {#損益計算書と貸借対照表の関係性}
損益計算書と貸借対照表は、以下のように密接に関連しています:
- 損益計算書で計算された所得金額は、貸借対照表の純資産(資本)に反映される
- 損益計算書は1年間の流れ(フロー)、貸借対照表は年末時点の状態(ストック)を表す
- 両方とも複式簿記によって正確に連動する
わかりやすく例えると、損益計算書はスピードメーター(どれだけ速く走っているか)、貸借対照表は燃料計(どれだけガソリンが残っているか)のような関係です。
- 売上や収入がいくらあったか
- どんな費用がいくらかかったか
- 最終的にいくらの利益(所得)が出たか
- 所得税の計算基準になる
- どんな資産がいくらあるか
- 借入金などの負債はいくらか
- 事業の正味価値(純資産)はいくらか
- 事業の財政状態を表す
損益計算書と貸借対照表はこの形式で作成し、確定申告書に添付することが必要です。e-Taxでの申告も必須条件です。会計ソフトを使えば、日々の取引を入力するだけで両方の書類が自動的に作成されます。
損益計算書の書き方と記入例 {#損益計算書の書き方と記入例}
ステップ1:収入金額の記入
売上など事業による収入をすべて記入します。業種によって「売上」「報酬」「給料」など表現が異なる場合があります。
ステップ2:売上原価の計算と記入
商品販売業の場合、以下の計算式で売上原価を算出します:
期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高 = 売上原価
サービス業など仕入れのない業種では、この項目は空欄または「0」となります。
ステップ3:経費の記入
事業に関係する費用を科目ごとに分けて記入します。主な経費科目には以下のようなものがあります:
- 租税公課:事業に関する税金
- 荷造運賃:商品の発送費用
- 水道光熱費:事業に使用した光熱費
- 旅費交通費:事業のための移動費用
- 通信費:電話代やインターネット料金
- 広告宣伝費:チラシやウェブ広告の費用
- 接待交際費:取引先との会食費など
- 減価償却費:固定資産の償却費用
ステップ4:所得金額の計算
収入金額 - 売上原価 - 経費 = 所得金額
この所得金額から青色申告特別控除(65万円または10万円)が差し引かれ、最終的な課税所得が計算されます。
記入例
実際の損益計算書の記入例です:
【収入金額】
事業収入:5,000,000円
【売上原価】
期首商品棚卸高:500,000円
+当期商品仕入高:2,000,000円
-期末商品棚卸高:700,000円
=売上原価:1,800,000円
【差引金額】:3,200,000円
【経費】
家賃:600,000円
水道光熱費:120,000円
通信費:84,000円
広告宣伝費:150,000円
接待交際費:50,000円
減価償却費:200,000円
その他経費:300,000円
経費合計:1,504,000円
【所得金額】:1,696,000円
【青色申告特別控除額】:650,000円
【差引所得金額】:1,046,000円
貸借対照表の書き方と記入例 {#貸借対照表の書き方と記入例}
ステップ1:資産の記入
年末時点で所有している資産を種類ごとに記入します:
- 現金預金:手元現金と銀行預金の合計
- 売掛金:年末時点で未回収の売上金額
- 棚卸資産:年末時点での商品・材料の在庫金額
- 固定資産:減価償却後の金額
ステップ2:負債の記入
年末時点で支払い義務のある負債を種類ごとに記入します:
- 買掛金:年末時点で未払いの仕入代金
- 借入金:金融機関からの借入残高
- 未払金:経費などの未払い金額
ステップ3:純資産(資本)の記入
- 元入金:開業時の資金や前年からの繰越金額
- 事業主貸:事業から個人への資金の流れ(マイナス表示)
- 事業主借:個人から事業への資金の流れ(プラス表示)
- 所得金額:損益計算書で計算した青色申告特別控除前の所得金額
ステップ4:貸借バランスの確認
資産合計 = 負債合計 + 純資産合計 となることを必ず確認します。合わない場合は記入ミスや計算ミスがある可能性が高いです。
記入例
実際の貸借対照表の記入例です:
【資産の部】
現金預金:1,200,000円
売掛金:300,000円
棚卸資産:700,000円
車両:800,000円(減価償却後)
資産合計:3,000,000円
【負債の部】
買掛金:200,000円
借入金:500,000円
負債合計:700,000円
【純資産(資本)の部】
元入金:800,000円
事業主貸:-200,000円
事業主借:4,000円
所得金額:1,696,000円
純資産合計:2,300,000円
【負債・純資産合計】:3,000,000円
- 事業用口座から生活費を引き出した
- 事業用クレジットカードで私的な買い物
- 事業用の現金で個人的な支払い
- 個人の貯金を事業口座に入金した
- 個人のクレジットカードで事業用品を購入
- 自宅にあった私物を事業用に転用
2年目以降の元入金:前年の元入金 + 前年の所得金額 + 事業主借 - 事業主貸
(生活費など)
(事業用口座など)
(生活費など)
事業主貸・事業主借は、貸借対照表の「純資産の部」に表示されます。事業主貸はマイナス項目として表示され、事業資金が個人的に使われた分だけ事業の純資産が減少します。反対に事業主借はプラス項目として表示され、個人のお金が事業に投入された分だけ純資産が増加します。
65万円控除を受けるには、これらの項目を含めた正確な貸借対照表の作成が必要です。事業とプライベートの区分を明確にしておくことがポイントです。
よくある質問と間違い {#よくある質問と間違い}
Q1: 青色申告で必ず65万円控除が受けられますか?
A: 青色申告をしても、複式簿記による記帳、貸借対照表・損益計算書の添付、電子申告などの条件を満たさないと65万円控除は受けられません。条件を満たさない場合は10万円控除となります。
Q2: 会計ソフトを使わずに手書きで作成できますか?
A: 手書きでも作成は可能ですが、複式簿記の知識が必要です。初心者の方は会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生会計など)の利用をおすすめします。ソフトを使えば日々の取引を入力するだけで、自動的に貸借対照表と損益計算書が作成されます。
Q3: 事業主貸と事業主借の違いは何ですか?
A: 事業主貸は「事業のお金を個人的に使った場合」(事業→個人)に計上し、事業主借は「個人のお金を事業に入れた場合」(個人→事業)に計上します。例えば、事業の口座から生活費を引き出したら事業主貸、個人の貯金を事業に投入したら事業主借になります。
Q4: 損益計算書と貸借対照表の金額が合わない場合はどうすればいいですか?
A: まず計算ミスや記載ミスがないか確認しましょう。特に以下の点をチェックしてください:
- 前年の貸借対照表と今年の期首残高が一致しているか
- 所得金額が損益計算書と貸借対照表で一致しているか
- すべての取引が適切に記帳されているか
それでも合わない場合は、会計ソフトの自動チェック機能を使うか、税理士に相談することをおすすめします。
青色申告の貸借対照表・損益計算書を自動作成するなら
複式簿記で65万円控除を受けるなら、マネーフォワード クラウド確定申告がおすすめです。日々の取引を入力するだけで、青色申告に必要な貸借対照表と損益計算書を自動作成。複雑な会計知識がなくても簡単に65万円控除を受けられます。
まとめ:申告書類提出前の最終チェックポイント {#まとめ}
青色申告の65万円控除を受けるためには、貸借対照表と損益計算書の正確な作成と提出が必要です。最後に、申告書類提出前のチェックポイントをおさらいしましょう:
- 損益計算書の確認事項
- 収入と経費がすべて計上されているか
- 所得金額の計算は正確か
- 青色申告特別控除額(65万円)が正しく記載されているか
- 貸借対照表の確認事項
- 資産・負債・純資産のすべての項目が記載されているか
- 資産合計 = 負債合計 + 純資産合計 となっているか
- 損益計算書の所得金額と一致しているか
- 提出書類の確認
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 青色申告決算書(損益計算書・貸借対照表)
- その他必要な添付書類(収支内訳書、医療費控除の明細書など)
青色申告の貸借対照表と損益計算書は、最初は難しく感じるかもしれませんが、会計ソフトの助けを借りながら基本を理解すれば、確実に作成できるようになります。65万円の控除は事業所得からの大きな節税になりますので、ぜひ正しく申告して控除のメリットを最大限に活用しましょう。
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この記事は2025年4月現在の税制に基づいて作成しています。税制改正により内容が変更される可能性がありますので、最新情報は国税庁のウェブサイトなどでご確認ください。